漫画原作の巨匠・小池一夫さんが
様々な漫画家、クリエイターをゲストに迎えながら、
持論の“キャラクター原論”をＣＧＭ時代に対応した
“キャラクター新論”というかたちに発展させ、
視聴者の皆さんと一緒に考えていきます。

第13講のゲストは、テレビアニメ、映画『魔法少女まどか☆マギカ』の脚本や、
小説『Fate/Zero』を執筆されたシナリオライターの虚淵 玄さんです。
二回目の対談となる今回は、2013年10月から公開中の
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』を題材に、
虚淵さんの創作論について、うかがってまいります。

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虚淵氏「アニメ製作現場は楽しいから離れられないと。」

虚淵氏「アニメ現場、脚本が早ければ早いほど製作に余裕が出来る」

小池先生「自分の色を変えることはない？」
虚淵氏「変えてはいけない場所は必ず脚本にそう書く、こう演出してほしいって書く」

虚淵氏「今回はキャラクターも世界観も既に出来上がっていたので、それをどう動かすのかは試練だった」

小池先生「新編のバスが行き先に着かないところは恐怖で印象的だった」
虚淵氏「子供の頃の一人でおつかいの経験、恐怖が無意識に出てしまった」

小池先生「ナイトメアのキャラクターは面白かった」
虚淵氏「脚本は数行だったのに、ぬいぐるみをつくったりとあれだけのものになったとは。あれだけで1本のアニメの面白さがあった」

小池先生「なんであの5人が戦っているのか？って理解するまでも面白かった」
虚淵氏「逆さまのロジックですね」

虚淵氏「初見の方は戸惑うんじゃないかなって情報量になっていた」

虚淵氏「今日僕も帰ったらすぐ仮面ライダー書かなきゃいけないんでw」

虚淵氏「最近の仮面ライダーは石ノ森先生の路線から外れすぎているんじゃないかなって思ってた」

小池先生「ほむらが作り出した結界の中に記憶を無くしたまどかが入ってきた経緯がいまひとつわからなかった」
虚淵氏「それはインキュベーターの策略で…」

虚淵氏「まどか自身が神様であることを忘れてしまうって設定のためにインキュベーターに一肌脱いでもらった」

小池先生「ベベはあのままの姿で出てくるから恐かった」
虚淵氏「第一稿では普通の言葉喋ってたところをイヌカレーさんからリテイクが入った。けど実質台詞も書いてもらってかなり助かった」

虚淵氏「ベベの作りは私も想像つかなかったので楽しかった」

小池先生「漫画はいきなり盛り上がらないといけない、ゆっくりとした筋書き、ゆっくりとした日常生活から破行っていくことが出来ない」

小池先生「まどか☆マギカは日常生活から入っていって第三回からがらっと変わるところが凄く見事だった」

小池先生「ブレインストーミングは漫画だと、せいぜい作者と編集者だけでしか行われない。しかも原作者と作画担当でろくに意思疎通がとれてないこともある」

小池先生「漫画のタイトルはキャラクターにするだけで、キャラクターで生きる。でもアニメはキャラクターだけじゃなくて、世界観が凄く重要だと感じた」
虚淵氏「アニメもキャラクター比重に偏りすぎていた時期がある。キャラクターが良ければ脚本いらない風潮もあった」

虚淵氏「でもキャラクターだけじゃ駄目、ちゃんとしたシナリオが無いと駄目だっていう流れになっているから僕が重宝してもらえるようになったんだと思う」

虚淵氏「漫画はいいシーンで時間を読み手が止められるのは、流れて行っちゃうアニメと違って強みだと思う」

小池先生「虚淵さんには時代劇を書いて欲しい」
虚淵氏「着物の作画が大変だし、時代の資料を集めるのが大変だし、とにかく難しいw」

虚淵氏「時代劇は宝の山だとは思うけど、どこから手をつけていいのかわからない。みんなやりたい思いがあると思うけど、迂闊なことを書いて嘘になっちゃったらマズイ。で、それを考証するのにどうしたらいいのかもわからない」

小池先生「吉原の世界とかをアニメにしてみたら凄く面白いと思う。美術設定をイヌカレーさんがやって虛淵さんが書く、そこに侍アクションがある、面白いと思う」

虚淵氏「海外の人のほうが、時代劇に対する後ろめたさがないから表現が奔放にしてもらえる」

小池先生「海外に刀剣持っていったら、警察に拘束されたけど、漫画の資料だって漫画見せたら大喜びされて税関も突破できたことがある」

虚淵氏「コミケはアマチュアの頃は関わったこと無かったけど、みんなそこで育ててもらった人はプロになってもコミケを大事にしてつながろうとしてる」

小池先生「これからまどか☆マギカ新編も海外？」
虚淵氏「これから公開。あれが西洋の方にどう見てもらえるかが気になる」

虚淵氏「ヨーロッパの宗教観を持った人達があの話をどう理解してもらえるのかが凄く気になる」

メール「暁美ほむらのモデルとなった人物はいますか」
虚淵氏「他のキャラクターはひだまりスケッチ見ながら想像を膨らましていたけど、暁美ほむらだけは別格。明確なモデルは思い出せる範囲じゃないない」

メール「今回の叛逆の物語ではほむらが悪魔になったが、虚淵氏の成長観について聞きたい」
虚淵氏「ほむらにいってみれば、迷いを捨てていくことだと思う。それを捨てていくこともひとつの成長だと思う」

虚淵氏「ヒーローとかもそういう感覚がある。」

メール「叛逆の物語のさらに続編は？ワルプルギスの夜の正体も見たい」
虚淵氏「Magica Quartetの中でも続きをどうしようとアタマを抱えてるけど、ちょっと止めようと言っている。新編が公開前はお客さんの反応が見えなかった」

虚淵氏「新編がどう受け入れられるかはわからないし、その反響を見てからにしよう。そして僕は今ライダーにかかりきりw」

小池先生「叛逆というのの意味とは？」
虚淵氏「本編が完結してしまっていたので、完結した作品に対して作品内で叛逆が必要だったし、僕自身作品に叛逆をしたかった。」

メール「改編後の世界での魔女の扱いはどうなっているのか」
虚淵氏「魔獣がメインの世界の歪みであるのは変わらない。だから明確に魔女という存在は居ないはず。しかし、混沌を象徴するほむらがいるので、ほむら次第なんだと思う。設定は詰め切ってない。」

小池先生「神と悪魔は憎しみあっている？」
虚淵氏「キリスト教だと神の愛が強すぎて、ルシファーが堕天してしまう。だから行き過ぎた感情というのは大変なことになるっていうのは普遍的な感覚なんだと思う。」

メール「子供の頃のバスの恐怖体験の話が印象的だったが、仮面ライダーについて子供に対して意識をしているシナリオの書き方はしているか」
虚淵氏「子供に向けたバーチャルな試練だと思ってる。想像力の世界の恐い物を弄ぶというのはメンタルを鍛える意味では重要」

虚淵氏「子供向けのフィクションっていうのは、恐ろしい、気持ち悪い、そういうものであるべきだ」

虚淵氏「どういうふうに恐怖に立ち向かっていけばいいのか、誰に頼ればいいのか、そういうところを考えてもらうことが子供向けのフィクションである」

虚淵氏「子供に”闇なんてない”って教えてる事は凄くマズイ教育だと思っている」

メール「劇場版のシナリオ作成の叩き台に苦戦したので、完成版との違いが気になる」
虚淵氏「パンフレットにも書いたけど、ほむらが魔女になり、まどかに救済されるってことで終了だったけど、こんなのを映像化するものか？と思っていた。ただの後日談だった」

虚淵氏「ブレインストーミングでほむらとまどかがケンカをするのでもいいのではないかの一言で、TVシリーズで神を創ったんだから、対する悪魔を創ってみようというアイデアが出た。僕だけの発想では僕だけの結末に縛られていたので、思いつかなかった」

虚淵氏「しかし、彼女のメンタル、彼女の発想力であれば実現出来る思考だった。だから実現出来た。元々は神に仕えていたものが、ある時叛逆して悪魔になってしまうというのはもともといくらでもあった話だったので、それを思い浮かばなかったのが苦しかった」

小池先生「アメリカンヒーローもキャプテンアメリカやバットマンがどんどん悩んだりして、変化をしていっている。しかし、キャラクター達の持っている世界観がずれかかっている。強い世界観のまどか☆マギカはアメリカでも受け入れられるはず」

小池先生「緻密な世界観をまずつくって、そこにキャラクターが存在している、そこが無ければ駄目なんだ。だから、今がチャンスですよ。まどか☆マギカのアメリカの反応を見てみたい」

メール「ほむらは本当に悪魔なのか？とても悪魔になりようがないと思う」
虚淵氏「劇場のラストの脚本が、脚本で書いた内容と、出てきた映像で印象が全く違う。彼女が葛藤してるかのような演出が加わった。あれがやってもらえたなって思ってる」

虚淵氏「僕が想像していた暁美ほむらよりも、暁美ほむらとしてのキャラクターが強まった。叛逆をして悪魔として自称しているほむらが、葛藤している。それが僕だけの解釈でも伝えきれない謎の部分。脚本家としては結論を出したいけど、そこをまだ出していない」

虚淵氏「サイコパス2期、まだ発表出来ないけど、僕が種をまいたことで花が咲きそう。」

小池先生「キャラクターっていう概念が言われるようになったのはここ十数年。キャラが立つとか、そういう言い方も昔はしなかった」

メール「ゲームの製作はもうしないのか？」
虚淵氏「映像方面に時間をとられちゃってどうしようもないんだけれど、スマートフォン普及によるゲームの転換期が起きている。自分でもスマートフォンのゲームをしているが、娯楽と暇つぶしの落差が難しい」

虚淵氏「スマートフォンは暇つぶしに特化している。けどゲーム機でプレイするゲームは娯楽として時間を割く。落差を明確に感じるので、自分としては人の時間を奪いたい、虜にしたい。お客さんの時間を奪う時間をつくりたいが、それが転換期なので」

虚淵氏「そういったものがちゃんと残っていけるのかどうか？という疑問はある」

メールスタッフ「廃れているがアドベンチャーゲームのこれからの可能性はあるか」
虚淵氏「実は今はスカイリムやオブリビオンなどのオープンワールドのゲームに一番可能性を見ている。一番興味はあるが、日本では出しにくいし、作家性を維持するのは難しい」

虚淵氏「世界観が全てであるから、世界観をしっかりと創ってしまえば、あとはお客が解釈してくれる。だからこそ世界観を創ることには非常に興味がある。」

虚淵氏「イヌカレーワールドのオープンワールドとか面白そうだけど創れないでしょw　僕は個人的にはイヌカレーさんにSTGをやりたいw」

虚淵氏「とにかくゲーム業界は転換期だから凄く難しい。結局何を信じて創るかってところではある」

メール「アニメーション作品の脚本家を目指している。脚本家になるために世界を広げるためにオススメの作品を知りたい」
虚淵氏「香港のガンアクション、香港ノワールなど印象的だった。それまでのアメリカのガンアクションの常識が覆った」

虚淵氏「今は時代も違うしいろいろあると思うけど、ひたすらアンテナを張り続けるしかない」
小池先生「僕が印象があるのはスパルタカス。ローマのコロッセオが出てくる作り方とかは感動的。いまはとても作れないような作品に洗礼を受けた」

メール「まどか続編が出たらさやかは主役に成り得ますか」
虚淵氏「劇場版で特殊な立ち位置になったので、孤高のヒーローになる可能性はある。直感で一人で抱え込んでほむらに対抗出来るのはさやかだけ」

メール「虛淵先生の書く小説や脚本は無駄が一切ないように感じるがどこまで設定を詰めてから執筆をはじめるのかな」虚淵氏「実はあんまり詰めてない。結構おろそかにしちゃってるので、無駄なモノを入れる余裕がないからかも」

メール「まどか☆マギカTVシリーズは物語あってのキャラクターがあった。しかし叛逆はキャラクターのための物語であった。キャラクターを意識して作成をしたか？」
虚淵氏「キャラクターが既存であって、それで続編を創る事自体がはじめての体験だった」

虚淵氏「キャラクターが自分で自分の役割に動いていったので、そこの製作過程は面白かった。誰かが探偵であるのはこの子だろう。誰かが引っかき回さなきゃならな、それはこの子だろうとキャラクターが手を上げて担当をしてくれる。」

虚淵氏「物語のためにキャラクターを作るのでは無く、物語をキャラクターが盛り上げてくれる」

小池先生「今日は本当にまどか☆マギカ上映してる最中に虛淵さんに会えたのは幸せ。やはり創ったものを見た後で、創った人に会えるのは至福。この生放送の反応を見ていても、こういう反応がもらえることでまどか☆マギカの凄さを感じる。でもやっぱり時代劇つくってw」

http://togetter.com/li/606093